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運動音痴の40代オヤジ、サーフィンに夢中

【紀行】初級者サーファーのハワイ一人旅(6)

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サーフィン歴7年(年に数回のへっぽこ)、英語はからっきし(中学一年レベル)の
人見知りオヤジが挑んだハワイ一人旅! 連載形式でお届けします


 

 ワイキキのサーフィンにご満悦の僕だったけど、残念なお知らせ。8時過ぎまでの一時間半ほど入水していたわけだけど、乗れた波は二本ほど。しかも横へ進めず、岸に向かって真っすぐに3秒程度のライディング。これじゃ日本の波に乗っているのと変わらない。
 ハワイでは夢のようなロングライドができるのだと期待してきたのに、一体どういうことだ?
 アウトの面々が乗っている波のサイズは、セットで頭くらい。そのおこぼれを拾って乗ろうとしてるので、なかなかのサイズの波のはずなのに、どうしてうまく進まないんだろう。
 思えば僕は、日本でこれくらい大きいサイズ感の波にチャレンジしたことがない。それで、なんとなくわかった気がした。大きい波は、当然力が強い。だから簡単にボードが走り出すんじゃないかと思っていたのだけど、むしろ逆なのかもしれない。波──うねりが大きいからこそ、そのスピードとパワーに、こっちのポジション、スピード、角度、タイミングなどをバッチリとあてないと、板がちゃんと走り出さないんだ。
 考えればネットでもゴロゴロ転がっているビッグウェーブのサーフィンなんかもそうだ。山のように大きな波に乗るビッグウェイバーたち。彼らはああいう波に挑むときは、もう自力のパドリングだけでどうこうできるものではないので、ジェットスキーに引っ張ってもらってテイクオフをしている。それくらいのスピードでもって挑まなければ、大きな波のパワーとスピードに乗れないんだろう。ひとつ勉強になった。
 うまい人たちや現地の人間に言わせると、きっと今日のここの波はまだまだ小さいものなんだろうけど、僕にとってはなかなか大きな波だ。僕はまだ、こういう波の乗り方を掴めずにいるんだ。
 8時過ぎ。僕はスープ(ブレイクし終えて岸にシュワーっと押し寄せてくる白波)の力を借りながら岸に向かってパドルし、200メートル近い距離を漕いで戻った。リーシュコードを外して海を振り返る。
 悔しさはあったけれど、不思議と焦りやもどかしさはなかったし、物足りなさも苛立ちも後ろ髪を引かれるような思いも、なにもなかった。むしろ、とても満足した気持ちでビーチを後にした。
 僕のなかで、何かが変わりはじめていた。

 

 

  ホテルに戻ってシャワーを浴びた僕は、出かける準備をした。地球の歩き方。メモにペン。デジカメ。ギャッツビーの汗ふきシート。サングラスに帽子。全財産でなく200ドルほどの紙幣。いつも持ち歩いてるリップと目薬。そして常備薬。内訳は、数年前にパニック障害に見舞われたころにもらった頓服。あと頭痛や歯痛に備えたロキソニンに、喘息発作に備えた飲み薬二種類。我ながら身体が弱いものだと苦笑して、枕元にルームサービス向けの一ドルのチップを置いて、ホテルを出た。
 今日の行き先はずばり、サーファーの聖地・ノースショアだ。
 Def teck の Jawaian Style Record というハワイアンレゲエを集めたコンピレーションアルバムをよく聞いているのだけど、リリースされた四枚のアルバムはそれぞれ、Haleiwa, Laniakea, Waimea, Ehukai と銘打たれていて、オアフ島の地図を見て気づいたのだけど、まずノースの入口にハレイワタウンがあり、少し北上したところにラニアケアビーチ、また少し北上したところにワイメアバレー、そしてもう少し北上したところにバンザイ・パイプラインことエフカイビーチがある。(さらに少し北上したところにこれまた有名なサンセット・ビーチパークがある)
 今日の旅はこのポイントを網羅するのが目的だ。まずアラモアナへ向かうため例によってトロリーに乗ろうとしたのだけど、ロイアルハワイアンセンターの停留所にたどりつくと日本人が群れをなしていた。何やら張り紙がなされている。

「本日イベントのため停留所位置変更。○○ホテル前へ移動ください」

 ああ、もうだめだ。そう思った。僕は方向音痴である。どこどこを目指せ、と言われてもそうはいかないのだ。トロリーをあきらめた僕は、ここから市バスを探してアラモアナを目指すことにした。
 こういうところが我ながら、不思議な性格だなあと思う。市バスの乗り場だってわからないのだから探すのは同じことだし、仮にバス停を見つけたとしてもアラモアナ行きが来るのかどうかもわからないわけだ。さらにはトロリーと違ってお金もかかる。なのに僕はその道を選んだ。
 ハードルの高い方を選ぶというと聞こえが良いかもしれないけど、そうじゃない。ただ僕は、無計画で、効率が悪く、無駄が多いのだ。そしてその無駄を、とても楽しむことができる性格をしている。
 例によって「Where is The bus stop?」を繰り返しながら、僕はなんとかアラモアナ行きの、黄色と白で彩られた、高速バスと見まごう風貌の立派なバスに乗り込むことができた。
 僕の先に乗り込んだ客のやり方を見て前払いだとわかったけど、せっかく用意してきた英語なので、「pay now? or later?」とかっこつけて舌を巻いてみた。でも聞こえなかったのか通じなかったのか、それとも無視されたのか、運転手はノーリアクションだった。僕は不貞腐れた表情で1ドル札を二枚と、25セント硬貨を二枚放り込み、椅子に腰かけた。
 やがて中継拠点となるアラモアナセンターに到着した。昨日ディズニーストアを案内してくれたインフォーメーションに行き、ハレイワ行きのバス停について質問したところ、バスに関する質問は階下のインフォメーションに行って聞いてくれというので、言われるとおりにした。
 フードコートの手前にあるガラス張りのインフォメーションに入ると、浅黒い男女のスタッフがこちらを見た。「Speak Japanese?」と問うと、そろって「No」の返答。よし、英語で訊ねてやろうじゃないか。

「I’d like to go to the Haleiawa town. Where is a bus stop?」

 するとスタッフが何やらごちゃごちゃと説明し始めた。
 そう、そうそう。ハワイへ来てみて困ったこと、それは、リスニングがまったくできないということだ。どこどこへ行きたい。バス停はどこ? 何とかそう訊ねるのはいいのだけど、相手の回答がまったく理解できないので、なかなか辿り着くことができないのだ。
 これには参った。「~~way~~」の部分だけ聞き取れたのだけど、「~~道~~」だけわかったとして、どこをどうやって行けばいいというのだ。すべての道はローマに通ず、なんて悠長なことを言ってられる場合じゃない。  
 僕はとっととハレイワ行きのバスに乗りたいんだ。さすがに困って、
「I’m sorry. I don’t understand English」と困った表情を浮かべてみせると、スタッフはアラモアナセンターの見取り図を用意し、現在地とバス停までのルートをペンでなぞって示してくれた。どうやらここからまっすぐ行って、一つ目の角を左に折れるようだ。

「Next one」僕の目を見てかぶりを振る男。「 ……No」

 どうやら角を折れてすぐバス亭があるようだけど、ここは違うらしい。いいか、これは罠だ、絶対に引っ掛かるんじゃないぞ、と司令塔。OK、OKと目いっぱい男前の表情をつくって僕は頷いた。

「Two」

 司令塔がボールペンで黒丸を作り、トントンと叩いて示す。もう少し先に、二つ目のバス停があり、ここへ乗るんだぞ、と記してくれた。
 司令塔に礼を言うと、僕は手を振ってインフォメーションを離れた。
 ここから真っすぐ行って、一つ目の大通りを左折だな──と思いながら僕はものの見事に一つ目の通りを通過してしまい、二つ目の大通りを左折した。一つ目のバス停が近づいてくる。僕はその罠に軽蔑の眼差しを向けながら「Fuck」と心で罵って通過し、やがて現れた二つ目のバス停に腰かけた。
 The bus の52番というのが僕の乗るべきバスなのだけど、30分ほど待っても一向に来やしない。
 いいかげんおかしいと感じて周囲にいる人に訊ねてみたところ、この通りじゃないよ一本向こうだよ、といった内容のことを言われ、慌てて引き返した。ビッチ! ファック! 見取り図を見ながら歩き、こんなの大通りじゃねえ、これただの駐車場の経路だろ、と見過ごしていたのが、僕が左折すべき一つ目の大通りなのだった。ああ、40分ほど無駄にした。
 正しいバス停でしばらく待っていると、どんどん客が増えてきた。その中に日本人の若い女の子二人組が現れた。ここで合っているのかどうか、といった会話が聞こえてくる。関西弁だ。
 ちょっと懐かしい気持ちになり、関西の人ですか? くらいからちらっと話しかけてみようかという気持ちになったけど、ダメだダメだと心で首を振った。この旅では必要以上に日本人と接しない、そう決めているのだ。
 向こうは自信がなさそうで、僕の方をちらちら見てくるのがわかったけど、無視を決め込むことにした僕はサングラスをかけてシャットアウトした。
 やがてやってきた、The bus No52、ハレイワ方面行き。それに乗り込み、「Go to the Haleiwa?」と訊ねると、運転手は頷きながらトランスファーチケットを渡してくれた。ああ、そういえば。事前にネットで調べて知っていたはずなのに、さっきのワイキキからアラモアナへ来るときのバスでもらうのを忘れていた。
 いまハワイでは、市バスに乗ると、このトランスファーチケットというのをもらえ、二回まで無料で別バスに乗り換えることができるのだという。ハレイワからさらに北上するためには52番から55番バスに乗り換える必要があるので、このチケットは重要だ。たった2ドル50セントとはいえ、無駄な支払いをしなくて済むのだから。
 僕が二人掛けシートに座ると、さっきの関西人二人組がガラガラの席の中、僕の真後ろに腰かけた。何かあったら聞いてくるつもりなのだろうか。
 やがてバスはゆっくりと走り出した。
 見ず知らずの土地を北上していくThe bus。車窓から望む景色を見ていると、だんだんと都会の喧騒から離れ、田舎の方へと向かっているのが実感できた。
 ふと思ったこと。グアムでも、なんなら沖縄でも感じたことなのだけど、南国の島国では、日本国内のように道行く通行人や、何をやっているのだか軒先に佇んでいる人など、とにかく人をあまり見かけない。やはり、暑いからなのだろうか。それともそういう、何というか、文化なのだろうか……?
 ただ世界だけがそこにある。そんな感覚を抱きながら、僕はThe busに抱かれて、オアフ島をゆっくりと北上していった。耳ざわりだった後ろの関西弁も、いつしか気にならなくなっていた。
 僕は今、旅をはじめている。

 

(つづく)

 

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