サーフィン歴7年(年に数回のへっぽこ)、英語はからっきし(中学一年レベル)の
人見知りオヤジが挑んだハワイ一人旅! 連載形式でお届けします
ホテルのロビーに併設している、白を基調としたリゾート感たっぷりの洒落たカフェで朝食をとることにした。大きな銀色のシーリングファンがくるくると回っている。
カウンター越し、上方に掲げられた黒板のメニューを眺め、アイスカフェモカを注文し、次いでキャッシャーのそばに陳列してある軽食のなかからブルーベリースコーンを注文した。
ここへきて思ったけど、この旅で僕はやたらとベリー系のものを注文している。おそらくハワイ=南国=トロピカルな感じ=ベリー、という短絡的な発想からくるものなのだろう。ベリーがトロピカル代表選手なのかはわからないけれど。
カフェの奥は壁がなく吹き抜けになっていて、外には小さなプールがあった。そこでホテルの住人が朝から気持ちよさそうにくつろいでいる。そんな姿を眺めながらカフェモカをずずっと飲む。なんてオシャレで気持ちのいい朝だろう。
しかししばらく待ってもブルーベリースコーンが出てこない。一から調理するようなものではなく、ガラスケースに陳列されている商品なのに、たかだかそんなものがなぜ出てこない? アンジェラ・アキ似の店員に僕は「ブルーベリースコーン……」とカタカナ英語をぽつりと漏らすと、アンジェラ・アキは「Oh!」と言ってオーブンからそれを取り出した。
なんだ、あっためてくれてたんだな。アンジェラ・アキは片言の関西弁で「メチャ、アツイデ」と言って僕に手渡してくれた。確かにメッチャ熱いわ。
それを平らげて朝食をすませると、僕は部屋に戻ることなく、その足でモアナルアガーデンパークを目指した。
簡単に調べたところ、市バスを利用する旅なのであれば、どうやらここワイキキからはどこへ行くにしても大概アラモアナを経由しなければならないことがわかった。僕はトロリーに乗って(今日はいつもどおりロイアルハワイアンセンターからの出発だった)、まずアラモアナへ向かった。
旅を振り返ると、到着した日の昼食はクラシックバーガー一つ、ポテト残し。夕食はレストランでまともなものを食べたものの、昨日はガーリックシュリンプのプレートランチの後、夕食はビーチでホットドッグを食べたのみ。一日二食、かつ小食だ。
やっぱりこの暑さと、おそらく疲れのせいで、どうも食欲がなくなっているようだ。連日のサーフィンに加え、実感はまだないけど旅疲れも蓄積してきているだろうことから、このままじゃ身体が持たないと思った僕は、レッドブルを飲んでドーピングすることにした。
真偽のほどは定かではないけど、ネット情報によると海外のレッドブルは日本のものと成分が少し異なり、医薬品か部外品かというギリギリのラインの強壮性があるのだという。
人間、思いこみが大切だ。僕はアラモアナセンター内のABCでレッドブルを買い、それを飲んで自分に発破をかけた。
さて、昨日のノース行きの際にも思ったことだけど、このでかいアラモアナセンターへ来るのはいいけど、ここのどこから目当てのバスが出発しているのか、それをまず把握しなければならない。僕はまたフードコート前の、日本語が通じない方のインフォメーションを訪ねた。昨日みたいに図示してくれたら助かるな(昨日はそれでも道を間違えたけれど)。
僕は外人スタッフに、例によって片言の英語で問いかけた。
「I’d like to go to the Moanalua garden park」
ふんふんと頷くスタッフ。よし通じてる。そしてこう続けた。3番バスのソルトレイク行きというのに乗ればいいらしいことを事前に調べてあったので、「The bus, No……」とまで言ったところで、僕とスタッフの声が重なった。
「Three」
合ってる合ってる、と僕らは笑った。で、だ。ここからが肝心。「where is a bus stop?」と投げかけると、またしても僕はすべての道はローマに通ず、の教えを説かれた。どう気合いを入れて耳をかたむけてもwayしか聞き取れないのだ。んー、参ったな、昨日みたいに図示してほしいんだけど。
そう困っていると、とつぜんスタッフの後ろにある扉がギギっと開き、中からアパホテルの社長が現れた。いや、もちろん本人じゃないけど。
アパホテルの社長似の煌びやかなおばあさんスタッフは、風の谷のナウシカの婆様の「その者、蒼き衣を纏いて金色の野に降り立つべし」とほぼ同じ調子で告げた。
「この道をまっすぐ進んで一つ目の交差点にwargleeというおおおおきなビルがあります」
アパホテルはそう言いながら、一枚の紙を手渡してくれた。「その下にバス停があります」
中を見ると、ここからモアナルアガーデンパークまでの簡単な地図。そしてどう行けばいいのか日本語で簡単な説明がなされていた。しかしよく見ると『FortShufterでおろしてもらうよう運転手に告げてください』とある。おいおい、肝心の「ここでおろしてください」をどう言うんだ?
とはいえせっかくの好意である。僕はアパホテルに感謝の意を述べてインフォメーションを出ると、メーヴェに乗ったナウシカよろしく軽やかな足取りでバス停へと向かった。
Wargleeのビルの下までやってくると確かにバス停があり、幾つかの経路番号が書かれているなか、ちゃんと目当ての「3」の表記があった。僕はバス停の椅子に腰かけると、財布からトランスファーチケットを取りだした。昨日、もらいそびれたり乗り換え時に出し損ねたりして一回分を余してしまっていたのだ。
数十分待ってやってきた3番バスに乗り込む時にそれを差し出すと、運転手が怒り出した。「○×÷※!@#%……yesterday」
ちょっとビックリしたけど、yesterdayだけ聞き取れたので理解した。どうやらこれは昨日限定のチケットのようだ。The busのチケットは当日限りなのだということを僕は知った。(僕が持っているのはブルーで、今日のチケットはオレンジ色のようだった)
「Sorry」と詫び、慌てて財布から2ドルと50セントを用意する。そうしながら僕は、満を持して準備していた言葉を放った。
「Would you mind tell me when I get to ……Fort Shufter?」
友人に教わった、○○に着いたら呼んでいただけますか? という英文をしたためていたことをさっき思い出したのだ。その○○の部分に、フォートシャフターとやらを当てはめてみた。あまりに自分がかっこよかったので繰り返すけど、僕は最初の手違いを詫びながら、財布から金を取り出しながら、さらりと(僕にしては)長文のお願いを投げかけてみせたのだ。
すると! これが見事に通じたようだった。僕に対して苛立ちを見せていた運転手は軽く微笑み、しっかりと頷いてくれた。やった! 英会話できた! トラベル英会話バンザイ! アロハ英会話! マハロ英会話!
しかし、発車して30分ほど揺られた僕は、けっきょく運転手に呼び出されることもなく、自動音声の「Moanalua garden park. HITACHI-Tree」という、これ聞きとれないようなら海外出てくんなよと言われても仕方がないほどのハッキリとしたアナウンスを耳にして、これじゃ誰でも来れるじゃん、と不貞腐れてバスを降りることとなった。
まあアナウンスのなかに「FortShufter」も確かに含まれていたのでアパホテルを責める気はないけど、にしてもHITACHI-Treeと言ってくれるのならそれがいちばんいい印じゃない? 僕は今でもアラモアナセンターインフォメーションの道案内センスを疑っている。
高速道路の脇道を下っていき、すれ違ったランナーのお姉さんからこの道を進んで間違いないことを確認すると、3分ほど歩いたところでデカそうな木の青々とした枝葉がちらりと見えてきた。あれに違いない。
公園の出入り口らしきところまでやってきたものの、端から端までチェーンが張られていて通行封鎖されていた。なんだこれ。でもどう考えてもここは公園への出入り口だ。そう判断した僕はチェーンをまたぎ、入園した。
パーク内は一面の芝生。芝は思いの外深かった。ビーサンやスリッポンで来なくて正解だった。5メートルくらいの短い橋を渡り、おそらくここのメイン広場なのであろう場所へとやってきた。眼前にそびえ立つバカでっかい木。おお、オッスー! そんな気持ちにさせられた。
知っていたことだけど、モンキーポッドは一本ではなく数本ある。その中のどれが、まさにCMで映し出されていた木なのかよくわからなかったけど、ここまでくるとそんなのはどうでもいいことだった。これだよと言われればそれが特別尊いもののように感じてしまうだろうし、嘘ですこっちでしたーと訂正されれば、その輝きは消え失せて、新たに指定された方がそれっぽく神々しく見えてくるに違いない。人間にはそういうくだらない側面があるものだ。
僕は計四本あるモンキーポッドを視界に捉えると、モアナルアガーデンパークの空気を胸一杯に吸い込んだ。
用を足したくなったので園内の公衆トイレに行くと、すぐそばに掘立小屋があった。どうやらここの管理事務所のようだ。入口の張り紙には日本語表記もなされており、そこには入園料3ドルと書いてあった。さすがアメリカというべきか、ちょっとルーズだなと思った。これじゃ出入り自由で、金を払わない客はわんさかいることだろう。正直言って料金が少ないからそうしたというのもあるけど、僕はせこい真似はせずきちんと金を払うことにした。
それにしても、あらためてモンキーポッドを見る。とても大きい。幹自体は、大きいと言えば大きいけれど、目を見張るほどではない。それよりもそこから伸びる枝葉の長ーいこと! 懐に入ると、一本の木の袂だというのに、それはちょっとした森の中にいるかのように強い日射しを遮り、神社の中のようなしんとした静けさを醸し出していた。
でも冷めたことを言うと、感想は一言、うん、まあ、木だね、といったところ。へえこれが、子供のころからよく見た、例のアレ、へえーって具合。
だけど僕はしばしこの木に寄り添ってみることにした。ちょっとここで、本でも読んで過ごそう。
(つづく)
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