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運動音痴の40代オヤジ、サーフィンに夢中

【紀行】初級者サーファーのハワイ一人旅(14)

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サーフィン歴7年(年に数回のへっぽこ)、英語はからっきし(中学一年レベル)の
人見知りオヤジが挑んだハワイ一人旅! 連載形式でお届けします


 

 レシートを見ると、TAX込みの金額が記載されているのだけど、レシートの下側に、10%だといくらいくら、15%だといくらいくらといった早見が記載されている。10%のチップを払うならこう、15%のチップならこう、ということを意味しているのだと解釈したけど、Wi-fiの繋がる滞在ホテル以外ではスマホを使っていないので調べようもなく、確証は持てない。でも多分そうなのだろう。
 早見によると何%の場合を選択しようが端数を用意する必要があり、それも面倒だと思ったし、かと言ってまとまった金を払っておつりとして細々した貨幣を受け取るのも邪魔になるので嫌だと思った僕は、10%と15%の間くらい、僕が支払いたい額を出すことにした。僕は両腕タトゥーを呼びだすとおもむろに、「I don’t understand English」と言った。レシートを理解できないんだ、といった狙いで。両腕タトゥーははにかんで首をかしげ、続きを待った。
 僕は続けた。

「Payment, 18 dollars」

 そう言いながら、10ドル札と、5ドル札と、1ドル札を三枚を差し出した。言葉はともかく、これで意図は通じるだろう。

「18 dollers?」とタトゥー。

「18 dollars」と僕。

 タトゥーは満足げに、僕から18ドルを受け取った。

 

 道端の換金所で手持ちのドルを増やした僕はホテルへ戻り、身支度を始めた。いよいよこの旅のメインディッシュである、タカサーフ・ハワイのガイドさん付き添いによるサーフツアーの時間がやってきたのだ。
 用意しながら僕は、弱気な気持ちで言い訳をいろいろと考えていた。一昨日7のファンボードで何もできなかったこと。昨日8のボードで岸へまっすぐのショートライドしかできなかったこと。今朝9のロングボードで少し向上してみせたものの、それでもやっぱり、ワイキキでのサーフィンそのものに苦戦していること。
「ツアーの際にどんな板を借りるかは、その場で決めさせてください」なんてメールを事前に送ってあって、調子がよければショートに乗ってやろうかだなんて甘く考えていたものの、こっちへ来てからというもの気分の面はともかくサーフィンそのものの結果は燦々たるものだ。そのうえ──僕は二の腕をさすった──サーフィンにおける体力の限界が近づいていた。やりすぎだ。
 いつも湘南・鵠沼では、岸からせいぜい50メートルくらいのミドルの位置で遊んでいる。しかも遠浅なので、満潮時を除けば基本的に足がついてしまうような環境だ。そんななか僕は、板の上に座る正しい波待ちではなく、海中に立った状態で波を待ち、波が来たと思ったら慌てて板に飛び乗り急いでパドルを開始する、とそんなサーフィンをずっと続けてきた。
 そんなやり方で、もっと、もっと、と何時間も何時間も、一日中粘って遊んでいたとしても、一日トータルのパドル量は本当にたかが知れていたと思う。200掻きくらいしかしてないんじゃないだろうか。それを週ないしは隔週に一回程度しかやっていない。ここ数年なんて年に指折り数えるほどだ。なんのトレーニングにもなってやしない。
 そんな僕がここへ来て数日。状況はこうだ。カヌーズポイントで、一度目のゲッティングアウトをするためだけで、まず百掻き以上、150から200メートルの距離をパドルしている。そして、速くはないが潮流に流されるため、常にポジションキープのためのパドルをしている。そしてテイクオフ時の全力パドル。さらに、少しとはいえ滑った後にまた元の位置にまで戻ってくるためのパドルがある。で最後に、海からあがるためのロングパドルだ。
 そんなパドリング道場を、一昨日、昨日、今朝と三日続けてきており、今日にいたってはこれから2ラウンド目なわけだ。これまで海からあがるたびに湿布を貼ったり冷やしたり軽くマッサージしたりで労わり続けている筋肉だけど、それでもこいつらはどんどん硬く、痛く、動かしづらくなっていく一方だった。厳しいなあ。そんな思いで苦笑しながら、僕はタカサーフへと向かった。

 

 

 約束の時間に店に着くと、店内には日本人女性スタッフ一人しかいなかった。まさかとは思うけどこの人が今日のガイド? すごくかわいい子だったからそれならそれで、と一瞬思ったけど、案の定その子はただのスタッフだった。
「もうそろそろ帰ってくると思うんで」と申し訳なさそうに言う彼女。とりあえず本日の料金を先に支払うことにした。そして肝心のレンタルボードの話題に移る。
 僕はこの三日間でいちばんまともに乗れた、9フィートのロングボードを要求した。そして次に、心配事を正直に打ち明けた。こっちへ来て非常に苦戦しているので、ちゃんと乗れるという自信が持てない。この店におけるサーフツアーとサーフレッスンの違いは何なのかを改めて問うてみた。
 彼女いわく、レッスンは僕の想像通り、手とり足とり指導をしてくれるものらしい。波に乗る時ガイドが波を選び、そしてグンと板を押してくれたりするのだという。やっぱりな。僕の思ったとおりだった。きっと場所も近場のビーチの初心者向けポイントだろうし、沖に出るときに疲れてパドルできないようなら、ガイドが先導しながら足のつま先を客の板の先にひっかけて連れて行ってくれたりするのだろうし、そもそも沖まで出ずインサイド(岸より)でやるのかもしれない。
 僕はさすがにそこまでの素人ではない。しかし、だ。じゃあ今回予約したサーフツアーとはどんな内容? 訊ねると少し予想外の答えが返ってきた。

「なんていうか、いっしょに、サーフィンを楽しみに行く。そんな感じです」

 え、いっしょに遊ぶ? 僕のイメージでは、クルマでいいポイントへ連れて行ってくれる。そしていっしょに沖に出る。たまにガイドが自身のサーフィンをやることもあるけれど、となりで僕のサーフィンを見てくれて、アドバイスをくれたりする。そんな感じを想像していた。それと彼女の言い分を比較すると、少し違う気がした。
 いっしょに遊ぶだなんて、僕のサーフィンはそんな高いレベルにないし、大体いっしょに遊ぶのに何で僕が金を払わなきゃいけないんだ? そう考えるとサーフツアーは何か違う気がしてきた。
 そこで僕は質問した。「いっしょにって、アドバイスとかはしてくれないんですか?」
すると彼女は、「それくらいなら大丈夫ですよ」と答えた。当たり前っちゃあ当たり前だけど、よかった。ほっとした。いくらなんでも完全なる遊び仲間、という位置づけではないらしい。僕の勘違いでよかった。
 てことは、ここが重要だ。「──どっちが成長しますか?」
 すると彼女は「レッスンだと思います」と答えた。よくわからないのでガイドに聞いてみてくださいなんて言われるかと思ったけど、そうじゃなかった。ガイドのことを信頼し、店の方針を理解し、胸を張ってきちんと答えている、と感じた。
 ──とそこへ、エベレストから命からがら帰ってきたような男が現れ、お待たせしました! などと話しかけてきた。え、待ってないよ登山家なんて。いや、よく見たら、

「タカさん!」

 僕は思わず声を張り上げた。そして思わず手を差し出し、固い握手を交わした。
 初対面なのになれなれしかったかもしれないけど、ネットで何度と見た顔だったし、予約時のメールで一度やりとりを交わしている相手だ。そんな人についに出会えたことが僕はとてもうれしかったのだ。
 大抵この手の話って、期待していた相手その人ではなく、別のスタッフが自分の担当者として付いたりするものだ(その別の人が悪いってわけじゃないけど)。実際、予約時のやりとりも最初の返信こそタカさんからだったけど、途中から別の署名の人に代わっていた。もしかしたら一昨日応対してくれた人がそうだったのかもしれないし、また違う人なのかもしれない。
 僕はむかしからクジ運的なものはまったくない方なので、きっとタカさん自らが担当してくれることなんてないんだろうな、と半ば諦めていたのに、まさかご本人登場とは。
 僕はつい数週間前にネットで知ったばかりの、一人のサーフインストラクターとの出会いにとても心を躍らせていた。何かやっぱり、アタリくじを引いたときのような小躍り感が出るものなんだよ、こういうのは。
 それにしてもタカさんの顔はすごかった。写真とは大違い。そこにある色は、黒、白、赤の三色だ。人間の顔を表現するのに、黒、白、赤って出る?
 彼の顔にはこってり塗りつけた日焼け止めの白、そしてそれでも効かないのであろう、サーファーとしての歴史を物語る日焼けした肌の黒、そして、紫外線と海水にやられているのであろう血走った眼の赤があった。エベレスト帰りの登山家と表現したのはそのためだ。

「板、レンタルするんですよね?」とタカさん。

「ええ、いま話をしていて──」彼女の顔を見る。「9のロングを借りることにしました」

「へえ。普段はどんな板を?」

「ショートです。でも、こうこうこういう理由で──

 説明すると、タカさんはふんふんと聞いてくれた。モクサーフの彼のようなお説教はなし。僕は正直に、ワイキキへ来て手こずっていることを白状した。

「わかりました。じゃあ僕ももう少し大きめのロングを用意します。もし疲れたら、僕の板と交換しましょう」

 優しくそう言ってくれた。

「で、今日はサーフツアーでしたっけ?」

 本題を再確認するタカさん。僕は女の子の顔を見て、タカさんに言った。

「やっぱり、レッスンでお願いします」

 タカさんと女の子が笑った。
 タカさんが表にクルマをまわしてきて、二人のロングボードをキャリアで縛り付ける。飲み水を持っていった方がいいというタカさんの勧めに従い、彼の準備中に、僕はすぐとなりの商店でハワイアンウォーターの1,5リットルのボトルを買って店へと戻った。

「じゃ、行きますか」

 タカさんのクルマに乗り込む。そうだ、左ハンドルだから、僕が乗る助手席は右側なんだっけ。どこへ連れて行かれるのかわからないまま、僕はタカさんとあれこれ話しながら車中を過ごした。

 

(つづく)

 

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