go for it !

運動音痴の40代オヤジ、サーフィンに夢中

【紀行】初級者サーファーのハワイ一人旅(19)

f:id:fuyu-hana:20190420210616j:plain

サーフィン歴7年(年に数回のへっぽこ)、英語はからっきし(中学一年レベル)の
人見知りオヤジが挑んだハワイ一人旅! 連載形式でお届けします


 

 僕は綺麗なビーチを見るのが好きだ。サーフィンをはじめた2009年以降、グアムに一回、沖縄に二回行っている。いずれもサーフできない海だけれど、それはそれとして僕は大いに楽しんだ。そしてここハワイ──オアフ島にも、とても美しいビーチがあるのだという。ラニカイと、カイルアだ。
 僕はその隣り合う二つのビーチのうち、手前に小さな町を要するカイルアの方へ行ってみたかった。
 シャワーを浴びて、いつもの身支度をしてホテルのロビーへと出る。今日は最後の晩餐。19時にレストランを予約していた為、18時にはホテルに戻ってこなければならなかったので、のんびり無駄を楽しむ旅は控えた方がいいかもしれない。そう思い、せめて往路くらいはタクシーでパパっと行った方がいいかもしれないと考え、僕はホテルマンに声をかけた。
「I’d like to go to the Kailua beach」
 耳を傾けるホテルマン。
「Ah…Call, TAXI」足元を指差す。「Place」
 単語を並べると彼は理解してくれて、すぐ手元にある電話でタクシーを手配してくれた。受話器を抑えながら「OneWay(行きだけだよ)」と言うので、OKと答えた。もともとそのつもりだ。
 手配完了の模様。ここで待てとジェスチャーされ、僕はおとなしくそこで待つことにしようと思ったとき、ふと不安がよぎったのでもう一度彼に訊ねた。
「about, Howmuch? 30dollers? 40dollers?」
 大体いくら? 30ドル? 40ドルくらい?
すると彼はまたすぐ電話して確認してくれた。結果「60dollers」
 60! 僕は即座にタクシーをキャンセルした。
 けっきょくトロリーでアラモアナへ向かうことに。トロリーに連日乗って思ったことだけど、運転手がよかれと思って、次の停留所をアナウンスする際に微妙に日本語を交えてくるのだけど、これがかえってややこしい。
「ココは、○○○○(ネイティブ発音)……ココ」 
 こんな風に、必ず末尾に「ここだよ」の意味で「ここ」と加えるのだけど、たった二文字の日本語を突然混ぜ込まれても、さすがにピンとこない。それにココナッツに代表されるように、ココという英単語や現地語もいろいろありそうだし。実際日本人客が「さっきから思ってて気づいたんだけど、『ここ』って言ってんだね」と言ってるのを何度か耳にした。
 運転手さん。僕もトラベル英会話がんばるから、アンタらも、がんばれ。
 アラモアナに着いた僕は、まっすぐインフォメーションへと向かった。今日はアパホテルはいなかった。かわりにまた別の日本語ができるスタッフがいて、カイルア行き57番バスの乗り場を教えてくれた。おとといノースへ行ったときの52番と近い乗り場だった。
 朝食を食べそびれていた僕はABCでマフィンとレッドブルを買い、バス待ちの間にそれを平らげた。ゴミを捨てたところで、あまりに疲れているのか、これまで散々乗ったThe busの料金がいくらだったのかわからなくなっていることに気がついた。あれ、2,5ドルだっけ。2,25ドルだったっけ……?
 本気で混乱した僕は、近くに座るポリネシアンの中年女性に訊ねてみた。
「The bus. Howmuch?」
 すると彼女は、「2dollers, 50cent」と答えてくれた。礼を言い、財布を覗く。The busはおつりが出ないと何かで見た気がした。財布の中身、2ドルはあるのだけど、あとは50ドル紙幣と20ドル紙幣だった。こんな大きいのを出しておつりがないなんてありえない。
 なんとか小銭で用意できないかとガサゴソやっていると、その女性が25セント硬貨を二枚見せてきた。「50cent」
 ああ、僕が硬貨の種類を理解できていないと踏んで、教えてくれてるんだ。と思ったけど、違った。彼女はその50セントを僕に差しだしてきた。もう一度「50cent」と繰り返す。僕は胸に手をあてた。「Really?」
 微笑んで頷く彼女。なんだかひもじい話だけど、50セントもらえることになった。でも気持ちが嬉しい。なんて良い人なんだ。
 それからしばらくして、そのバス停は僕の乗りたい57番のみならずさまざまな系統がやってくるので、待機する順列が崩れてゆき、彼女はどんどんベンチの向こうへと移っていった。あらためてもう一度お礼を言いたかったけれど、旦那さんと思しき初老の男性がやってきて何やら話し込みだした彼女に、もう口を挟む余地はなさそうだった。ありがとう、おばちゃん。おかげでカイルアへ行けるよ。
 やってきた57番に乗り込む。いやそれにしても、日本人乗車率の高いこと高いこと。たまたまかもしれないけど、九割方が日本人の女性グループだった。
 ハレイワもメジャーなスポットなんだろうけど、やっぱりあちらはサーフの要素が強いのだろう。でも片やこちらは、全米ナンバーワンビーチだの、天国のビーチだのといった触れ込みで、日本人観光客の心をくすぐりまくりだ。そりゃこうなるわな、と僕は思った。
 旅気分を損ねた僕は、貝のごとく目と耳と心を閉ざすことにした。
 バスに揺られることおよそ40分。カイルアタウンへ到着。地球の歩き方に組まれた特集によると、バスは街中のいくつかの停留所に止まるようで、僕はその中の適当な停留所で降りることにした。
 360度景色を確認する。
「……うわあ」

 

 今回の旅ではじめて、きれいな山を見た。山と言ってもそんなに大きな山ではなく、それは山と丘の中間くらいのものだけれど。田舎町といった風情のカイルアタウンはどこか牧歌的で、ぽかぽか陽気も相まってとても気持ちがよかった。高い建物もなく、真っ青な空と山の緑とがくっきりとしたコントラストを醸し出している。
 背が低く横に広いスーパーや、飲食店、アートギャラリー、洋服屋さん、雑貨屋さんなどが点在する町並み自体はハレイワに通ずるところもあるけれど、こちらは向こうに比べて海っぽさが少し控え目なように感じられた。
 カイルアは、ザ・ハワイといった感じはしない。なんと表現すればいいか、不思議な感覚の町だった。海と山が近いことを感じさせつつ、近代的に整備された、田舎町。なんじゃそりゃ、といった感じだけど、僕の乏しい語彙ではそうとしか表現できない。
 日本国内で似たような町を見たことがないし、映画で見たどのアメリカとも違う気がする。ただ言えるのはとても美しいということで、僕は思わず、信号待ちをしているときにとなりにいる白人男性に「Kailua town, so beautiful」と突然言ってしまったほどだ。
 そうだね、といった具合にペラペラ話しかけてきた男性に僕は、「I’m sorry. I don’t know, what you say」と返した。自分から話しかけておいて、我ながらひどいヤツだと思う。
 さて、ここで何か食べようかと思ったけど、あちこちの飲食店で日本人観光客がキャッキャ言って列をなしてたのでパスすることにした。このままカイルアビーチまで歩いて行ってみよう。途中で何か、食べるところがあるかもしれない。
 海までの道はいたってシンプルで、タウンからカイルアロードという大通りをまーっすぐしばらく歩いて、やがて現れる二股を左に折れ、またまーっすぐ進むだけ。日射しが強いので水分補給に気を配りながら、僕はペットボトルを片手に海への道をのんびり歩いた。
 道中、レンタサイクルに乗った日本人が何人も僕を追い抜いていき、また海の方からも、何人もの日本人が自転車でやってきて僕のそばを通り過ぎて行った。そういや地球の歩き方でレンタサイクルを勧めてたっけ。みんな読んでるんだろうな。
 ふだん日本でなら3時間くらい平気で歩く僕だけど、旅疲れのせいかこの暑さのせいか、片道30分弱とされているこの道のりがだんだんキツくなってきた。喉の渇きが激しく、ペットボトルの水がもうなくなりかけている。このまま水を買い足せなかったらちょっとへばりそうだな。
 そう思っていたところ、前方左手にちょっとしたマーケットを見つけた。助かった! あそこで飲み食いできる。と同時に気がついた。もう数百メートル向こうに、海も見えている。慌てることはないと判断した僕は、まず腹ごしらえと水分補給をすることにした。
 レストランでもカフェでもない、食堂といった風情の店。入るとなかなかの混雑っぷりだ。こういうところはきっと旨い。メニューをさっと順に眺める。あ、カレーいいなあ。そこでふと思った。そういえばこの旅で、僕は好物のロコモコをまだ食べていない。夕食はステーキだし、明日は帰国だ。もうロコモコを食べるチャンスはここしかない。
 そう思いながらメニューをさらに確認すると──あった! ロコモコ! しかし注文の列に並び、自分の番がやってくると、僕は何を思ったのか初見の印象が強かったのか「Beef Curry」と口に出してしまい、席についてしばらくしてから「あ」と間違いに気づいたものの時すでに遅し。給食のおばさんのような三角頭巾をかぶったおばさんが、僕の席にカレーを届けにきた。ああ何やってんだよ、まったく。
 さらに最悪なことにこのカレー、おそろしくマズかった。妙に緑色が強いそれは、カレーの味がまったくしなかった。緑色で無味のドロドロ。なんだこれ。
 僕はガーリックシュリンプのときにもあった、サイドディッシュのマカロニサラダだけを平らげ、そのカレーらしきものを三口ほど食べて残した。
 昨日のフォーから、食事の失敗が続いている。なんてこった。それにしてもどうやったらカレーをマズく作れるんだろう……。この「Beef Curry」ってヤツ、僕はこれをビーフカレーじゃなくて、ビーフキュリーと読むカイルアの郷土料理なんだと思うことにした。きっとlocomocoってのもロコモコじゃなくて、ロカム・オ・コーとかいう謎の郷土料理でマズイに違いない。頼まなくてよかったんだ。僕はそう自身を納得させることにした。
 店を出て少し歩いて、じりじりと視界が開けて僕の目に映ったカイルアビーチのまあ何て綺麗なことか。うわー、じゃなくて、ふわー、と声が漏れる感じ。
 陳腐でチープな表現になってしまうけど、それはもうでっかいでっかいプールだった。沖の向こうに見える三角帽子みたいな小島が、ボラボラ島のコテージのように見えてかわいらしい。真っ白な砂粒はとても細かくサラサラで、思わずちょっと舐めてみたいと思うほどだった。もちろん舐めなかったけれど。

 

(つづく)

 

f:id:fuyu-hana:20190425021411j:plain

 



関連記事

<はじめから読む>

www.fuyu-hana.net

 

<サーフィンしませんか>

www.fuyu-hana.net